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愛し愛されて生きるのさ。

愛し愛されて生きるのさ。

『DISTANCE』

『DISTANCE』(2001・是枝裕和監督)

 大量殺人事件を起こしてしまったカルト集団の加害者遺族の物語。明らかにオウム真理教を意識している。被害者でもあり加害者でもある彼らの心のしこりを描きたかったのだと思われるが、演出のせいか私は全く感情移入できぬまま映画は終わってしまった。
 
 この映画にははっきりした脚本がない。設定だけ決めてあとは役者の即興で構成されている。私はこういう映画は好きじゃない。映画というものは練りに練って作られるものであり、ただ普通のおしゃべりをスクリーンを通して聞かされても面白くもなんともないのである。ナチュラルさを追求するのが目的なのだろうが、鑑賞に堪えうるナチュラルは計算されたナチュラルなのである。脚本がない映画なんて、製作者の怠慢としか思えない。

 ARATA・伊勢谷友介といったモデル出身陣は、やはりのっぺりした会話を繰り広げるためケレン味が無い。セリフが心に響いてこないのだ。逆に夏川結衣・寺島進・遠藤憲一といった役者たちは脚本が無くても、感情が昂ぶるシーンでは芝居らしい芝居をしていた。セリフは即興でも、感情を豊かに表現しメリハリをつけていた。こういうちぐはぐさも映画としての完成度を低くしている要因だと思う。

 夏川結衣に限って言えば、荒れ狂う夫(遠藤憲一)を見て泣き崩れるシーンが実に美しかった。どうにもならない事態に直面し、泣き、呆然とする女性の表情ってすごく綺麗だと思う。個人的な趣味かもしれないが。

 要は、被害者でもあり加害者でもある彼らを描くことで、「カルト集団が起こした事件の責任性がどこにあるのか」ということを論じようとした映画であると思うが、やはりカルト集団が起こした事件は許されないことである。そこがこの映画に感情移入できなかった最大の理由かもしれない。



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